『明暗』読了

・実に力強い小説。これが完成していたら、と悔やまれる。
・心理描写はところどころ抽象的でくどい部分もあるが、徹底して意識の襞を丹念になぞり続ける執拗さは、やはり圧倒的だ。
・津田の視点と、お延の視点を使い分けることによって、両者に対する批評を徹底している。
・経済や階級の問題を下から突き上げる「小林」、このあと、どのように働いただろうか。
・金力権力を体現する吉川夫人。強引に昔の婚約者に引き合わせた意図はなんだろう。そして、その命に従った温泉場行きは、津田にどのような結果をもたらすか。お延との夫婦関係、吉川夫人とお延との関係は、どう変化するはずだったのか。
・いずれの人間関係も、非常に生臭くねじくれており、それらは、おそらく小説が完結しても解消されなかったはず。むしろ、昔の婚約者との再会は、悪いほうへと働いただろうが、それが明確なカタストロフィに結実したかどうか。むごたらしい現実がむごたらしさを増して、だらだらと続いて行くように、小説は完結したのかもしれない。

 ・とりあえず、水村美苗の『続明暗』を読み始めたが、どうも、文章がダサい気配が濃厚で、最後まで読めるかどうか、ちょっと不安。