漱石「行人」

 重苦しい小説でした。理や真面目さにこだわる人間の苦悩。その鬱陶しい人間に振り回される周囲の人間の苦労。
 ・二郎(語り手)と嫂にかかわる三角関係(精神的な)は解決されない。兄、一郎(主人公)との確執は宙ぶらりんのまま。
 ・構成にはやや疑問も。第一章、三沢という友人の話は長すぎるような気がする。あとで三沢は活躍するとはいえ、主人公の兄と直接関連しないエピソードが長すぎるような。
 ・最終章のラスト。Hさんからの長大な手紙で小説が終わってしまう、という構成は、直接『こころ』へと繋がるもの。しかし、手紙で小説を終わらせてしまうのは、、、、。
 その手紙を読んだ二郎の反応や、それで、二郎がどう変るのか、変らないのか、旅行の後兄はどうなるのか、そういうことを読者は知りたいんですけど。
 ・この小説の文体は晦渋というよりも無駄に愚図愚図している印象。それは、語り手二郎が腹に一物持っていることから来る必然的なこと?

 ──次に読み始めている『道草』の文体は引き締まっている。それはまた別のエントリで。